好かれる話し方のコツは、聞き手が「自分にも関係することだから、聞いておかなくては…」こう思うように話すことです。
自分の体験談を話すときも、「聞き手の問題」に置き換えて、語りかけるのです。
目次
好かれる話し方のコツ ~「聞き手の問題」に置きかえて話す~
話し手が、日常生活で感動したり、怒りに燃えたりした経験は、世界で唯一のものですから、
聞き手の耳を惹きつける、いい材料になります。
ただし、それは、あくまでも、個人的な体験ですから、どんなに興味深い内容であっても、
「自分とは関係のない、別世界の出来事」
こう受け取られる可能性もあります。
次の文章は、大きな社会問題となったニュースをもとにして、創作した、スピーチです。
いつ、わが身に降りかかってくるかわからない、身近な問題であり、特異な体験をした主人公をモデルにしたものです。
例1:
今日は、「人生、一寸先は闇である」という話をいたします。
三年前の出来事です。
私が会社から帰宅する途中、JR中央線の電車の中で、近くに立っていた20代の女性が、携帯電話で大声で話をしていました。
私は、腹が立ちましたので、「車内での携帯電話はやめなさい」と、強い口調で注意をしたのです。
この女性は、「わかったよ」と、ふてくされて、電話を切りました。
その場はそれだけで終わりましたが、電車を降りて、駅から出たところで、突然、警察官に呼び止められました。
「あなた、電車で痴漢をしませんでしたか?」と、聞かれたのです。
電車の中で注意をした、あの女性が、腹いせに、ウソをついたのです。
「私は何もやっていませんよ」と、必死に抗議をしたのですが、警察官は、
「やった人は、みんな、同じことを言うんですよ。とにかく、警察署でゆっくり話を聞きますから」と言って、
衆人環視の中、有無を言わさずにパトカーで連行されました。
なんと、その日から、きつい取り調べが、三週間も続いたのです…
話し手にとっては、人生最大の危機に直面した、体験談です。
話題は、はっきりしており、内容も、具体的です。
しかし、これでは、聞き手は、面白いテレビドラマを観ている気分で終わってしまい、他人事としか思いません。
人は、誰でも、自分のことに一番関心をもつのです。
それだけに、話し手自身も、自分の関心のある話のみ、熱を込めて語る…という失敗をおかしがちです。
このケースでは、体験のみが語られているため、
聞き手に、「人生、一寸先は闇である」という主題を、自分の問題として捉えさせるまでには、至っていません。
重要なのは、「聞き手自身の問題」に置きかえて話すことです。
そこで、導入部分を、次のように工夫する必要があります。
これだけで、だいぶ、印象が変わってきます。
例2:
今日は、「人生、一寸先は闇である」という話をいたします。
あなたが、通勤電車に乗っているとき、近くの女性が、いきなり大声で、
「痴漢です!この人、痴漢です!」
と、あなたを指差して叫んだら、どうしますか?
あなたは、無実を証明することが、できますか?
…あなたは今、幸せな毎日を送っていらっしゃいますよね。
もし、このような事件に、巻き込まれたら、
あなたの人生は、一瞬にして、地獄の世界に変わりますよ。
私は、三年前、実際に、この体験をしたのです。
私が会社から帰宅する途中…
導入部分で、聞き手に、問題意識をもたせるような工夫がされています。
まず、
「あなたは…どうしますか?」「あなたは…できますか?」
このように、ドキッとするような質問を、投げかけます。
次に、
「あなたは…ですよね」と述べ、同意を得た後に、
最後に、
「あなたは…しますよ」と語り、興味を刺激しています。
このように、
自分の問題を、聞き手の問題に、置き換えることで、
聞き手の感情が揺さぶられ、
無意識のうちに、自分の問題として、真剣に、聞き入るようになるのです。
「聞き手の問題」に置きかえて話すには、次の4つのポイントがあります。
①「あなた」と呼びかける
「皆さん」では、全員を指すために、
聞き手は、自分に対するメッセージとは捉えません。
しかし、「あなた」という言葉を使うと、
聞き手は、自分に呼びかけていると感じます。
例1:「あなたは、自分から挨拶をしていますか?」
例2:「もし、あなたが、道ばたで1万円札を拾ったら、どうしますか?」
②「質問型」を使う
聞き手に考えさせる、という効果を生みます。
なお、質問形を使ったときは、必ず、聞き手が考える「間」をつくりましょう。
例1:
「三億円の宝くじがあたったら、あなたは、どうしますか?」
(…)
例2:
「あなたが、起業するとしたら、資金はどのようにして集めますか?」
(…)
③「念押し」をする
「…でしょう」「…ですよね」という言葉は、相手の同意を得るための、念押しの言葉です。
このように、投げかけられると、
人は、自然に、心のなかで、うなずくものです。
例1:「週末に郊外の別荘で過ごせたら、素敵だと思うでしょう」
例2:「マイホームをもつことは、誰にとっても叶えたい夢ですよね」
④「独自の視点」を盛り込む
自分の意見を出すときには、聞いてよかったと思うような情報を入れるなど、工夫が必要です。
先のスピーチの場合は、次のように述べることで、聞き手は、最後まで話に引き込まれます。
例:
「冤罪が、あなたの身に降りかかってこないとも、限りません。
このようなときは、生半可なことで、妥協しないことです。
やっていないものは、やっていないと、自分の主張を貫き通す精神力を備えることが、大切です」
共感されやすい内容で、語りかけてみよう